鋼の錬金術師の主題

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鋼の錬金術師は全巻持ってる。
物語漫画として大変面白く読ませていただいた。
私も例に漏れず、作者は男性だと思っていたのだが、今年に入って女性であったと知った口である。
まあ正直、作品が面白ければ作者が男だろうが女だろうがどうでもよい。
ただ、この作者が自身の漫画家となる以前の実家での暮らしを描いたエッセイ本、「百姓貴族」の内容が
どう考えても男性の生活としか思えなかった、というところが・・。
ペンネームが「弘」だからではなく、男と思い込んだのは「百姓貴族」のせいだよ・・。

物語を読んでいない人のために少しばかり物語のさわりを説明すると、
父親は家を出て行き、母親が病気で死んでしまった主人公兄弟がいる。
その母親を「錬金術」を使って生き返らせようとしたが失敗。
その対価として弟の肉体全てと、兄の片腕片足を「向こう側」と呼ばれる「錬金術」の実行する「理」により持って行かれてしまう。
弟をよみがえらせるため、兄弟はさらに「錬金術」に磨きをかけ、軍属の錬金術師となるが・・と言うお話。

鋼の錬金術師」は、読んでいる時はタダ面白い漫画だとしか思っていなかったのだが、最終回を読み終わってから
作品のテーマを深読みするようになった。
しょっぱなから「自然の理に反して死んでしまった愛する者を生き返らせたい」などという重たい主題を読者にぶつけて、
その後も次々メガトン級に重い主題をぶつけているのに読者をうんざりさせる事無く、軽快な物語の運びで浮上させ、
その重さを感じさせないまま、「売れる物語」として読み切らせてしまった。
すごい語り部である。

ちょっと内容を思い返すだけでも、この作品が放り投げた主題の重さと数の多さにあぜんとする。
よくもこんな数をひとつの物語に放り込んで破綻しないものである。

  • 人間が不老不死で永遠に生きる事の是非
  • 魂さえ有れば肉体がなくとも人間といえるのか
  • 無くしてしまった臓器を科学の力でどこまで修復する事が許されるのか
  • 理由無く理不尽な暴力により愛する者を奪われた場合

復讐する事は権利なのか?
復讐する事はそもそも許される事なのか?
正義なのか?
社会機能を維持する上で復讐は合理的なのか?
残された者の救済となるのか?
死んで行った者たちは報われるのか?
復讐しなかった場合、死んで行った者は死に損では無いか?
仮に殺される理由があったのであれば殺してもよいのか?
理由なき大量殺戮が個人ではなく組織により行われた場合、
復讐の対象をどうやって選別するのか?
無差別殺人の実行のみを対象とするのか?
実行者への指示者を含めるのか?
支持者から利益を得ようとしていた者は含めるのか?どこまで?
復讐の対象者と見なすべき相手の中に、救済の手を差し伸べていた者がいたらやはり復讐対象とすべきなのか?
復讐として自身が理不尽な暴力をふるう者となった場合、かつて「理不尽な暴力の実行者の関係者」でしかなかった人間が、
新たな「復讐を行う権利者」になってしまう負のスパイラルを発生させる事になるが、それをどうやって断ち切るつもりなのか?
・・・きりがない。

作者は掲げた主題のひとつひとつに対し、どれひとつとして「正しい」答えは提示していないし、その問題に直面する登場人物たちが
何を「選んだ」かによって答えのひとつを提示しているに過ぎない。

もちろん、誰にも「正しい」答えなど出せない問題ではあるが、しかし、これらの主題は全て実際の世界で常に発生し、
社会を動かして行く上でなにがしかの「答え」を社会単位で選択しなければならない問題ばかりなのだ。

物語の中で作者が提示した「答え」に賛成できる物も有れば出来ない物もある。
正直言うと、「答え」を選択するに至る理由を描く過程が不十分な訳ではないのだが、安易ではあるとは思った。
物語として筋は通っているし、答えに至る過程に盛り込まれるエピソードが足りなくて説明不足になっている訳でもないのだが。
うーん、なんと言うか。
「ああ、やっぱりそういう風に持って行く訳ね」
という感想になったのである。

作者が、話の結末の「答え」が安易すぎると読者が憤慨する事で、異常なほどわかり易く提示された「重すぎる山ほどの主題」について、
深く考える事になるのを狙っていたのであるなら、脱帽した上で帽子を振り回すしか無い。

鋼の錬金術師全27巻 完結セット (ガンガンコミックス)

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